【現代】無人労働論(4) FinTech(フィンテック) と無人労働化

 近年、都市部の大手企業において、間接部門の人員削減が急速に進められている。間接部門とは会社の業績に結びつく業務を担当する直接部門(製造や開発、営業・販売など)を支援する部門のことであり、人事、総務、経理などが代表的である。いわゆる「事務職」である。特に地場産業、大きな工場を持たない都心部において障害者の雇用創出をする際に、定型業務をそれなりの量確保できる間接部門は重要な拠点だったと言ってよいだろう。

 しかし、間接部門において人的労働力の需要があったのは、少なくとも21世紀初めの段階では、ICT(情報通信技術)はあっても、業務の中に人間が判断しなければならない要素が多数あったからに他ならない。ICTがさらに発達して人間がいなくても判断できる要素が増えていけば、間接部門は次第に雇用を縮小していかざるを得ない。

 一部の大手企業では、間接部門の従業員を技術職に配置転換しようとする動きもある。もちろん、従来間接部門で働いていた障害者が元々高い技術を有しているか、今は高い技術を持っていなくても、将来的に技術を習得できる見込みが高い場合には、配置転換を通じて人的労働力を技術部門に移転していくという選択肢もある。しかし、現時点で大多数の間接部門の配置された障害者たちは単純事務の従事しており、それほど職域拡大、スキルアップの取り組みが熱心に行われている訳でもなかった。雇用を失うか、雇用はされていても業務からあぶれてしまう障害者が増大していくことが懸念される。

 そのような事例の一つとして、今回は金融業界におけるFinTech(フィンテック)の普及について簡単に紹介しておこう。「今さらFinTech(フィンテック)なんて」と思う読者もいるかもしれないが、FinTech(フィンテック)導入による金融業界の人員削減が加速しはじめたのは、ここ5年ほどのことである。FinTech(フィンテック)導入が先進国の中では遅れていた日本においては、導入に伴う人員削減はまだまだ生々しい現在進行形の出来事である。

FinTech(フィンテック)とは、Finance(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語であり、金融サービスとIT技術などを結び付けた、新しいサービスや動きのことである。アメリカでは2000年代前半から使用され始めた言葉だったが、国際的に普及しはじめたのは、2008年のリーマンショックの時期だったと言われる。リーマンショックで職を失った金融人材が金融業界から流出し、ITベンチャー企業への雇用、あるいは創業が進んだことが普及につながったとされる。ベンチャー企業による電子商取引やデジタルメディアにおいて占めるシェアが無視できなくなったため、銀行などのような既存の金融業界でも導入が進められることになった。リーマンショックで既存の金融業界から撤退を余儀なくされた金融人材の創出した技術が、既存の金融業界の人員整理に帰結しているというのもある意味で皮肉である。

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FinTech(フィンテック)によるサービスの例としてよく取り上げられるのは、以下のサービスである。

①ネットバンキング(インターネットを利用して送金を可能にする)
②無人レジにおける電子決済(店員によるレジ入力や貨幣の清算が不用になる)
③家計簿アプリ(アプリと連携した銀行口座やクレジットカード、電子マネーで決済すれば、収入や支出が自動的に記録される)
④ロボアドバイザー(質問をユーザーが答えるだけで適した投資配分を提案してくれたり、個人が関心のあるテーマを選ぶだけで投資できる)
⑤仮想通貨(一般的にはネットワーク上で電子的な決済の手段として広く流通しているが、法定通貨との比較において強制通用力を持たない、または特定の国家による裏付けのないもの)
⑥ブロックチェーン(複数の参加者が同じ帳簿を共有しての管理を可能)

これらのサービスが普及した場合には2つのことが想定される。1つは貨幣なしに商取引が行われるキャッシュレス社会の進行であり、もう1つは小売業における会計、間接部門における経理などにおいて人的労働力が不要になるという事態である。少なくとも、お金の収支を確認することで成り立っていた業務は今後、不必要となっていく方向に進んでいくことになるだろう。

また、④ロボアドバイザーは金融業界以外への応用も期待されている。例えば、法律相談、税務相談など機械的な判断が可能な相談業務も理屈の上ではロボットに代行させることが可能であり、士業(例えば弁護士、司法書士、行政書士、税理士、社会労務士)が今後も生き残っていくのかは不確定である。

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障害者就労支援分野において、よく障害者は定型業務に強いということが言われる。つまり、現在障害者就労支援の対象になりやすい知的、精神、発達、高次脳機能障害者などは臨機応変さを求められる業務は苦手だが、手順、ルールが明確な業務には対応できるという話である。もちろん、定型業務が苦手な障害者というのもいるので一概には言えないが、仮に定型業務が得意な障害者が多かったとしても、やはり障害者の業務設計が苦境に立たされることは避けられないだろう。定型業務ほど機械による状況判断が可能になった分野は他にないのだから。

障害者の雇用率を上昇させていく方法ならば、複数の方法がある。しかし、雇用した後にどんな業務を任せるつもりなのか、雇用された障害者の労働参加の質をどのように担保するのかといった点を無視してはならないだろう。

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