【未来】無人労働論(1) 無人労働化とは何か?

 障害者雇用、そして障害者就労支援の世界で働きながら、ここ1年ほど考えていたことを何回かに分けて連載してみることにしよう。

 政府、行政部門による社会保障費の切り下げが続く中、これまで労働弱者とされてきた人々にとって、賃金労働だけが生活収入を得る数少ない手段となりつつある。その代わりのように最低賃金は毎年のように上昇を続け、様々な形で展開する就労支援ビジネスは活況を呈している。21世紀の始まりに日本で設計された「福祉から就労へ」という路線は着実に進行しているように見える。

 しかし、「福祉から就労へ」という路線を維持するためには、二つの重要な前提が不可欠になる。一つ目は、どんな分野であっても、膨大な業務量があり、その業務を処理するための人的労働力を民間企業が多数必要としているという前提である。二つ目には、民間企業が供給している商品、サービスを多くの市民が購買する力を持ち、かつ必要としているという前提が追加されるだろう。

 二つ目の前提については既に怪しくなってる。雇用がたくさんあると言っても、それほど多くの収入を望めない雇用ばかりがたくさん用意されていたのでは、市民の購買力は増加せず、結果的に個人消費は停滞する。資金力を持つ民間企業の間のみでお金が出入りしているのでは、早晩景気全体の落ち込みは避けられないだろう。

 しかし、本稿が特に注目するのは一つ目の前提、つまり民間企業が人的労働力を必要としているのかという点である。この前提についても、筆者は悲観的な見通しを語らざるを得ない。なぜならば、産業の世界は急速に無人労働化が進んでいるからだ。いかにいくつかの具体例を挙げてみよう。

 まずは商品取引の世界に目を転じてみよう。AMAZONなどのネット取引が主流化したことにより、手続き、予約、商品の購入はインターネットによって可能となった。衣服などサイズを細かく検討しなければ購入できない商品を除けば、商品を陳列するための店舗、顧客に商品の説明を行い、お勧めの商品をPRする店員の存在は必要とはされなくなりつつある。仮に店舗が存続したとしても、電子マネーを機械に通せば、自動的に決済が可能な技術が完成すれば、無人店舗の実現は不可能ではないだろう。

 筆者自身、地方に出かける時は以前は旅行代理店を活用していたが、インターネットで格安の航空チケット、宿泊の予約ができるようになると、ほとんど活用することがなくなってしまった。また、書籍、DVD販売(レンタル)の分野では、電子媒体化が進み、電子商品を電子ファイルによって提供することが一般的になりつつある。これにより、製本、DVDの製造、そして梱包と発送の手間とコストは大幅に省力化とコストダウンを図ることに成功した。


 特に21世紀に入ってから無人労働化が進んだのは、定型的な事務業務である。銀行、金融業界では早い段階でATM(現金自動預け払い機)が導入され、店舗の縮小が進められていった。さらに近年ではRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が進み、ホワイトカラーのデスクワークは、ルールエンジンやAI(人工知能)などの技術を備えたソフトウェアのロボットが代行・自動化するようになった。このようなロボットのことをデジタルワーカー(仮想知的労働者)」と擬人化して呼ぶこともある。ここ2~3年管理部門と呼ばれた(人事、総務、経理)などの人員削減が一気に進んだのも、その影響が考えられる。また、コスト削減のためのペーパーレス化の進行は、書類のファイリングなどを行っていた単純事務職の存在を必要ないものにしつつある。

 一方、現時点では人手不足と言われる製造部門においても、製造ラインをロボットが一元的に管理するファクトリーオートメーションが進行しつつある。オートメーション化された工場に必要なのは、ロボット自体が故障した時に、異常を発見し、修理を行うエンジニアのみである。
また、オートメーションとまではいかなくても、溶接、組立、搬送、塗装、検査、研磨、洗浄専門のロボットはそれぞれに存在する。

 また、人の業務を補助するサービスロボットというのもあり、清掃、簡単な接客の分野ではすでに実用化されつつある。サービスロボットは、企業における補助業務を担当することの多い障害者雇用とも競合する存在となるだろう。

 機械が人の仕事を奪ってしまうという話は産業革命の渦中にあった19世紀にも話題になっていたが、今や現実のものとなりつつある。特に設備に多額の投資ができる大企業では人的労働力こそが、最大のコストとなってしまっており、単純労働に従事する人的労働力の削減が進行しつつある。このことは「福祉から就労へ」という就労自立支援路線を歩まざるを得ない低技能労働者に重い影を投げかけている。

 障害者もまた例外ではない。長期間企業で働いた末に障害者となったが、発症前の労働能力は残存しているという例を除けば、多くの雇用障害者は低技能労働者である。法定雇用率があるからやむを得ず雇われるが、職場の仕事からはあぶれてしまう障害者は増加の一途を辿ることになるだろう。さらに大手企業において従業員の削減が進み、法定雇用率で雇わなければならない障害者の数が減少すれば、多くの企業が法定雇用率を達成していても、多くの障害者が失業状態に置かれることになるだろう。

 社会保障が、多くの障害者が仕事からあぶれても生計を立てていけるように設計されていれば、無人労働化が進んでも、それほど問題になることはない。しかし、無人労働化が進んでいるにも関わらず、障害者就労自立路線が維持されている現状は極めて危険と言わなければならない。

 今回の連載の骨格となる部分については一通り語った。次回からは今回語った内容から細部を取り出し、丁寧に論じていくことにしよう。

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