【修正版】グレーゾーンへ(6) 触法障害者と非行少年⑤

(最近、乱文になりすぎて書き直しが多いなり)

 本題とは全く関係ないことだが、4月11日付でここ数年お世話になっていた自閉症協会を退会することになった。
と言っても理念や路線の対立のような崇高な理由ではなく、もっとしょうもない理由での退会だ。しかし、結果だけを見れば、グレーゾーンの障害者問題を語る際の立ち位置「アウトサイダーであり、アマチュアであり、権力に対しては真実を語らなければならない(サイード)」に近づいてきたような気がする。

 自閉症協会を退会した後も、特に他の障害者団体に入会するつもりはない。そんなのはある宗教に不満を抱いた信者が、別の宗教に入信するようなものだ。あくまでアウトサイダーの立場で行動し、障害種別に関係なくグレーゾーンの障害者問題について連携のできる関係者とのみ連携を取り行動していこう。

 なお、退会の理由については一切回答できないので、質問をしても無駄である。

 本題に入ろう。自閉スペクトラム障害/広汎性発達障害少年と非行の関係についてである。参考文献としては以前紹介した本を用いる。


>③藤川洋子『発達障害と少年非行 司法面接の実際』2008年金剛出版
>④杉山登志郎『そだちの臨床 発達精神病理学の新地平』2009年日本評論社

 まずは統計的な観点から重要な意義を持つ③藤川洋子本から考察していこう。家裁調査官補として非行少年との司法面接に携わっていた藤川氏は広汎性発達障害と診断がつくような非行少年の特異性に注目していた。

 第一に彼女/彼らの非行は暴走族に代表されるような集団非行に走るタイプとは明らかに異なっていた。元にLD/ADHDがあったと考えられる非行少年の場合、負の連鎖に巻き込まれた後、集団非行に走るケースが多い。もちろん、非行集団の中で彼女/彼らが浮き上がることは少なくないとされるのだが、それでも非行集団に仲間入りすることはできる。

 しかし、広汎性発達障害と診断される非行少年の中には、非行集団には所属しておらず、単独で犯罪を犯す者が少なからず存在した。さらに通常の非行少年であれば、その服装,髪型,立ち振る舞いからして非行集団の文化に染まっていることが多く、何らかの触法行為,犯罪に関わる前に、何かをしでかしかねないようなオーラを漂わせている。しかし、広汎性発達障害と診断された非行少年の多くは、何らかの犯罪に関わる前の非行化のプロセスがなく、突然犯罪を起こしてしまうことが注目された。学校では成績優秀でまじめと評価された少年も少なくない。マスメディアから見れば「普通の子がなぜ。。。」と言われるような事件に、広汎性発達障害と診断される非行少年が存在したのである。

 厳密に言えば、その非行少年たちが「普通の子」と見なされていたかどうかは疑問である。生育歴,同級生の評判などを調べていると、同級生からは孤立していた、あるいは不思議な奴だと思われていたというケースも多く存在する。それでも、犯罪を犯すとは思えなかった少年が突然、殺人のような重大事件を犯すというケースはマスメディアにセンセーショナルに取り上げられた。

 第二に、広汎性発達障害と診断された少年による重大事件では、動機の不可解さが注目された。「人を殺すという経験をしてみたかった」という豊川主婦殺害事件の犯人である17歳の高校生の供述はとりわけ注目された。精神鑑定ではじめて「アスペルガー症候群」という診断が報道され、支援団体の関係者は風評被害の防止に追われることになった。「早期発見,早期対応され適切な支援を受けた当事者たちならば、予後は良好である」という常套文句が登場するようになったのも、この頃だ。「つまり、うちの団体で品質管理した当事者ならばそんなことはしない。やったのはうちの団体では品質管理できなかった当事者たちだ」という訳である。

 そこで、未診断,中途診断の発達障害当事者たちが支援団体およびその参加者のスケープゴート(生贄)にされたのは以前述べた通りである。実は早期発見,早期対応された場合でも犯罪に至ったケースはあると実例を挙げて反論はできるのだが、今のテーマからは外れるので、引き返すkとにしとう

 しかし、広汎性発達障害と診断された非行少年の動機が一般には理解しにくい動機で犯罪に関わるケースがあるというのは事実である。藤川氏はこれを事例に基づいて

・対人接近型(ビデオなどを模倣した性非行など)
・理科実験型(本やテレビで見たことを実験のように試してしまう)
・パニック型(パニックを起こして相手を死傷させてしまう)
・本来型(他人の眼を気にせずに行動してしまったケース)

の4タイプに分類した。広汎性発達障害と診断された少年犯罪の特異さというのはいちおう重要なポイントではあるだろう。ただし、藤川氏がそれを「犯罪の特異化」とあたかもそれを時代の傾向であるかのように語ったのは誤りだと思う。

 以前、このブログでも取り上げたことがあるのだが、藤川氏が広汎性発達障害者に多いとされる犯罪のタイプは、(単独型で動機が不可解)は必ずしも最近になって多くなった話ではない。赤塚行雄『青少年非行・犯罪史資料』には、少年の起こした重大事件に関する記事が多く掲載されているが、単独型犯罪に関して言えば、今と質的な差はないと言ってよい。
 
 1960年代にも人を殺して「このまま生きていても仕方がない。思い切ったことをしてみたかった」と供述した少年,やはり人を虐殺して「絶叫を聞くのが快感だった」と供述した単独犯罪型の少年、学校に仕返しするために校長と教員を竹やりで刺し、少女を人質にとり、トラック運転手を脅迫して逃走しようとした少年の事件など、現在の広汎性発達障害と診断された重大事件の加害者少年と同タイプの事件は起こっていた。少年による陰湿な殺人事件,強姦事件も今の数倍以上起こっていたことが確認されている。

 特に性犯罪については、今よりも性描写に対する規制が厳しかった60年代の方がはるかに少年による強姦事件は多かった。性情報の氾濫を性犯罪の温床であるかのように語るのは誤りである。

 さらに藤川氏によると、統計上発達障害少年が非行を起こす割合は通常よりも高いとしている。2004年7月の東京家庭裁判所での疫学調査では、862例中、PDDが疑われたり診断された事例は24例(2.8%),ADHDが49例(5.7%)とされている。2003年に文部科学省が発表した悉皆調査の結果(PDD0.8%,不注意・多動2.5%)に比べると確かに有意に多いことが伺われる。

 なお、わたし自身は多いという結果については不思議でも何でもないと思う。前回のLD/ADHDと診断される非行少年の場合と同様、広汎性発達障害と診断される少年たちも貧困以外の理由による家庭,学校における負の連鎖に巻き込まれやすい。そう考えれば、割合が高かったからと言って、別に不思議がることではない。

 しかし、統計の数字を確認する上で、もう1つ見ておかなければならないことがある。それは、藤川氏が指摘するように暴走族に代表されるような集団非行型の非行の減少である。集団非行が減少すれば、当然のことながら単独非行型の犯罪は件数自体が増えていなくても、割合は増加する。当然のことながら、広汎性発達障害と診断される孤立しやすいタイプの少年たちの犯罪の割合も増加することになるだろう。割合の増加が件数の増加につながっている訳ではない。

 同じことはADHDと診断される非行少年についても言える。例えば、暴走族の中に生まれつきのADHD少年とそれ以外の少年がいるとしよう。当然のことながら、後者の割合が減れば前者の割合は件数が増えていなくても相対的に増えることになる。

 つまり、割合ではなく件数に注目しなければ広汎性発達障害と診断される非行少年たちが増えたかどうかは判断できないことになる。そして、今の段階では発達障害と診断される非行少年たちの過去と現在の犯罪の件数と質を比較できる統計は取られていない。分かっても21世紀に入ってからの統計に限られる。

 従って、まだ「犯罪の特異化」と表現できる状態とは言えないのではないだろうか。むしろ、非行統計だけを見ると、他の犯罪が減少したために、特異な犯罪が浮かび上がってきたという風にも読み取れなくはない。今の段階では広汎性発達障害と診断された非行少年の犯罪が他と比べて特異性があるという以上のことは言えないのではないだろうか。

 では、マスメディアで広汎性発達障害と診断された少年や成人の殺人報道が目立つという点をどのように理解すればいいだろうか。新聞記事を調べてみると、殺人を犯したとされる広汎性発達障害者の記事は多い年でも年間2,3件しかでてこない。警察発表によれば大人の殺人事件が年間600~700件あり、少年犯罪も年間100件程度あるとされる。つまり少年/成人を含めて、年間700~800件の殺人事件があることになる。広汎性発達障害と診断される人は0.8%いるのだから、700~800人の中に5.6人~6.4人(つまり6人前後)いても不思議ではない。つまり、その中に2~3件、広汎性発達障害と診断される人びとの殺人事件が報道されたとしても、決して不思議ではない。むしろ、年間2,3件とすれば、それは少ない方である。もし、彼女/彼らの犯罪が目立つように見えるのであれば、それは犯罪の内容や動機などが特異であり、突発的だということでしかありえない。

 なお、藤川本では貧困などの社会的要因よりも発達障害のような生物的要因を重視する姿勢が目立つ。貧困以外の理由で負の連鎖に巻き込まれる少年がいるという点についてはわたしも認めるが、生物的要因と家庭,学校における負の連鎖のどちらの影響が大きいかという点については判断が難しい。前回紹介した品川本でも、非行の要因となるとされる生物的要因,心理的要因,社会的要因を複合的に抱えた少年は数多く存在することが確認されているからだ。

 ただし、生物的要因が大きいと言った方が、家族や学校の責任が不問に付されることが多く、本人の障害のせいにしやすいという点については指摘しておこう。発達障害という概念は教員の指導力不足,家庭の教育力不足という非難から当事者の家族や担当の教員を守るために一定の効果がある概念なのだ。例え、じっさいに生物的要因が大きかったとしてもそのことを忘れてはならないだろう。このことはじっさいに社会的要因が大きいのか生物的要因が大きいのかと言った科学的議論とは無関係である。

 さらに、生物的要因の強調は犯罪を犯しやすい脳や遺伝子があるのではないかという議論と結びつきやすいことも忘れてはならないだろう。事実、藤川氏が引用している犯罪心理学者福島章は殺人犯の脳を調べたところ、高率で異常所見が発見され、福島氏が「殺人者精神病」と銘打つ必要があるのでは、と述べていることを紹介している。そして、藤川氏自身もその中にアスペルガーや多動性行為障害と重なる部分があるのではないかと、福島氏の見解を追認している。そして、広汎性発達障害の臨床家の方が生物的要因を強調する傾向は強い。


 今のところ、藤川本から妥当として認定できることは以下の通りである。


①広汎性発達障害と診断される少年たちの中にも、他の少年たちと同様、犯罪を起こす者は存在し、統計上は多いとされる。ただし、それは他の少年犯罪が減ったためなのか、広汎性発達障害と診断された少年の犯罪が増えたためなのかまでは分からない。

②犯罪に他の少年犯罪とは異なる特異性があるということは事実として認められる。藤川氏が言う認知行動療法が有効という点については宇治少年院の報告と同様留保が必要だが、事件の取調べ,司法面接,法廷,少年院における対応では障害を考慮に入れた対応が必要になる場合がありうる。

③犯罪を起こした少年たちの中には学校,家庭における負の連鎖に巻き込まれた少年が多数存在するが、生物的要因が大きい場合と社会的な要因が大きい場合の二つの可能性が考えられる(当然のことながら、両方の複合型というケースもありうる)。

 次回は初期から広汎性発達障害と診断された触法少年について早期療育推進論の立場から言及してきた杉山登志郎医師の発言を取り上げてみよう。ここで、わたしたちは弱者面をして支援の必要性を訴える専門家,当事者家族,当事者たちがグレーゾーンの発達障害者たちにとって最大の加害者となっていく過程を目の当たりにすることになる。



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この記事へのコメント

ぶじこれきにん
2010年04月01日 18:12
みんなも気にしている国家試験って何の試験をこうもりさん受けたんですか。
 例えば社会福祉士の資格、介護福祉士の資格ですか??
差し支えなかったらお答えください。
ぶじこれきにん
2010年04月01日 18:22
こうもり氏自閉症協会退会。既成の支援団体、保護者・メディアのありように批判的なこうもり氏当然の選択だろう。
 グレーゾーン、PDDの犯罪に発達障がいという言い訳を用意して教師の理解不足、指導力不足、家庭の教育力不足のせいにしない、巧妙なトリックとしかいいようがない。
 S氏に見られる発達障がいに適切な支援をの叫びをする専門家、親、支援者、本人発言をする当事者たちが、PDDの非行という事態の加害者とは・・・驚いた。こういう鋭い発言、切れ味鋭い分析は自閉症協会にいては出来ない。アウトサイダーに立てば言えるセリフだ。
 理由はすべてこのブログでこうもり氏が語っている。
こうもり
2010年04月01日 20:04
>みんなも気にしている国家試験って何の試験をこうもりさん受
>けたんですか。

社会福祉士だす。やっぱりグレーゾーンの障害者というテーマを扱うには、障害者手帳を持っていない当事者にも対応できる資格が必要かなと思いまして。。。

しかし、まるで妖怪が従三位のような称号を持たされたような気分だす。
こうもり
2010年04月01日 20:11
あ、自閉症協会退会の理由は本当にしょうもない個人的な事情によるものだす。ほんと、我ながら情けない理由で退会したもんだす。

それはともかく、現在の発達障害系の主要な専門家,団体がグレーゾーンの障害者たちの最大の加害者になってしまうということは現実にありまする。
グレーゾーンの当事者たちはわらをもすがる思いで専門家,団体にすがるが
実は彼女/彼らこそはグレーゾーンの障害者たちを歓迎していなかったり、早期支援を訴えるための道具にしている元凶だという場合があるのですじゃ(あくまで場合があると言っているのであって、常にそうだと言っている訳ではない)。

S医師の営みこそがまさにそれを体現していると言えるでしょう。
悪い魔女
2010年04月02日 06:48
ついに裏家業への仲間入りでございますね!!!
あたしも今まで堅気の道で生きた方がいいじゃないかと思って
遠慮していたんですが、
裏稼業(グレーゾーン)の依頼、今後は色々出させていただきます。

こうもり
2010年04月03日 07:13
裏稼業!!?

何かアウトローのような響きのする美しい言葉ですにゃ。何かわくわくしてきたじょ。
ぶじこれきにん
2010年04月05日 11:22
でも症もない理由であれ、しがらみがない分、言いたいこといえるじゃないですか??悪い魔女さん言う裏家業に徹して、裏で支援者や、支援機関、スター本人発言当事者・親の会等支援団体・行政・メディアをブログでばっさり切る。
 そしてグレーゾーン当事者の代弁者になる。いい生き方を選択しましたね。
 必殺批判者こうもりの誕生だぁ!!
こうもり
2010年04月06日 07:18
まあ、批判のための批判はするつもりないけれど、アウトサイダーであり、アマチュアであるというのはそういうことになりまする。アマチュアというのは自らの信念に基づいてアクションを行う場合には、一切金銭を受け取らない存在なんだそうです。
御殿場君
2011年05月31日 16:41
御殿場では、人間の本質的な精神異常性が集団社会学として現れる場合がある、閉鎖的な村社会における、支配が人間の異常性を更に高め、集団異常を起こさせてしまう
其れが戦争という形に成り
宗教や愛国心に変化する
故に個人の異常は集団異常社会の
現れでもある

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