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zoom RSS 【修正】グレーゾーンへ(5) 触法障害者と非行少年C

<<   作成日時 : 2010/03/21 11:53   >>

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>@品川裕香『心からのごめんなさいへ 一人ひとりの個性に合わせた教育を導入した少年院の挑戦』
>2005年 中央法規
>A定本ゆきこ「発達障害と非行」『発達障害の臨床心理学』
>2010年 東京大学出版会

 上記の参考文献を中心にグレーゾーンの障害者の中でも発達障害と非行少年の問題を取り上げていこう。まずはそれぞれの文献の内容から紹介して、読み方を検討していこう。

 まずは、犯罪に対する世論の関心が広がる中で、発達障害者支援業界のみならず、一般にも広く読者を獲得した@の品川本から取り上げていこう。この本の内容を一言で表現すると京都の宇治少年院の非行少年に対する矯正教育の取り組みとそこで立ち直っていく院生たちの姿を感動的に描いたルポタージュとなっている。ここで取り入れられた矯正教育の方法こそが、「宇治方式」と呼ばれる認知行動療法を取り入れた矯正教育であった。

 「宇治方式」に関わった少年院の職員たちの言葉によれば、少年院には「LD(学習障害)/ADHD(注意欠陥多動性障害)に似た状態を示す少年たち」が少なからず存在したとされる。宇治少年院の調査では、2000年の調査を開始した時点では、LDの疑いのある子どもは全体の53.8%,ADHDの疑いのある子どもは80%,LDとADHDを併せ持っている疑いのある子どもは51.6%いるとされた。2004年時点での調査では、LDの疑いのある子どもは71.4%,ADHDの疑いのある子どもは80%,LDとADHDの併せ持った子どもが61.5%いたとされる。かなりの高頻度と言っていいだろう。

 ただし、職員たちは少年院に発達障害を持つ少年が多いと言っていたのではなく、あくまで「発達障害に似た状態にある少年」が多いと言っているに過ぎないことに注意する必要がある。ここには後天的に発達障害状態になった少年たちも含まれているのだ。

 発達障害支援関係者はあまり口にすることが少ないが、発達障害状態というのは、生まれつきの障害だけが原因なのではなく、ある程度人為的に作り出すことができる。例えば、LD状態は臨界期(ある機能を獲得するための適切な期間)に意図的に読み,書き,計算,話すなどの学習をさせなければ作り出すことができる。臨界期が過ぎてからこれらを学習しようとしても、習得は難しくなり、学習には生まれつきのLDの子どもと同じような困難が発生することになるだろう。

 ADHD状態を作りだすのも至って簡単であり、虐待を受けた子どもの中には脳の一部が萎縮して、後天的に生まれつきのADHDと同じ状態になることが知られている。その気になれば自閉症状態だって、人為的に作り出すことができる。有名なのは旧社会主義国家ルーマニアにおける「チャウシェスクの落とし子」だろう。チャウシェスク政権下で国家政策として避妊と堕胎手術を禁止し、女性に5人以上子どもを生むことを強要したが、その結果、大量のストリートチルドレンが生み出された。そして、政権崩壊後、ストリートチルドレンたちの中に「自閉症」状態とも言うべき子どもが多数発見されることになった。ネグレクトによって生じた自閉症状態と言ってもいいだろう。

 ちなみにわたしの場合は、事実上は発達性協調運動障害と診断される症状を持つが、これだって人為的に作り出すことができる。よく、ボクシングで頭部に打撃を受け続けるとボタンの止め外し,まっすぐな歩行に支障が出るとされる(いわゆるパンチドランカー)。幼い頃のわたしはまさにパンチドランカーと同じ状態だったので、理屈の上では頭部のある部位に打撃を与え続ければ、わたしと同じ状態を経験することができる。あまり強くはお勧めしないが、わたしの体験を追体験したければ試してみればいいだろう。わたしがあれこれ言葉を尽くして語るよりはよほど理解の早道である。

 なぜ、発達障害状態は人為的に作り出すことができるという話が話題になりにくいのかと言えば、理由は簡単だ。発達障害のある子どもを持つ保護者が抱える大きなストレスの1つは「親の育て方に問題があったからこうなってしまったのではないか」という世間のまなざしだ。それに対して「発達障害は親の育て方が問題なのではない」というのが、発達障害支援の重要な主張だった。しかし、発達障害状態が人為的に作り出せてしまうとなると、話はややこしくなる。再び、「やはり、親の育て方に問題があるケースもあったのではないか」という理解がなされてしまう可能性があるからだ。

 話を元に戻すと、宇治少年院にも後天的に発達障害状態となった少年たちが存在した。職員たちによれば心理学的にメタ認知能力(人間が自分自身を認識する場合において、自分の思考や行動そのものを対象として客観的に把握し認識すること。それをおこなう能力)が弱いとされる少年たちだった。発達障害臨床においてもメタ認知の弱い子どもは少なくないとされるため、職員たちは先天的なのか後天的なのか分からないが、メタ認知能力が弱いとされた非行少年のことを「発達障害に似た状態を示す少年」と呼んでいたのである。


 これらの少年の中には貧困家庭,崩壊家庭,反社会的な親,学力の問題,社会的なつながりの弱さ,不良交友,シンナー吸引などのリスク因子を抱えている子が多く、99年の内部調査では70.6%が身体的虐待を受けていたとされる(ネグレクト,性的虐待を除いた数)。そして、7割は学校のいじめられっ子でもあったとされている。両親が揃っているのは全体の26.6%,家庭内不和などの葛藤を抱えた家庭が57.7%,生活保護を受けている家庭が25%,貧困家庭が38%,親に非行や犯罪歴がある犯罪親和家庭が35%以上との結果が出されている。いわゆる家庭と教育の負の連鎖に巻き込まれた少年たちと言っていいだろう。余談だが、イギリスでニートという場合は日本で言う非行少年に近い少年たちのことを指すことが多く、日本のように就労に自信を失い仕事にも教育にも参加しなくなった若者たちを指している訳ではない。

 発達障害当事者の中には、非行少年と発達障害を一緒にするなんて、と憤る読者もいるかもしれない。しかし、事態はもっと深刻である。もし、発達障害という言葉を使わなければ、非行少年につけることのできる診断名は行為障害,反抗挑戦性障害,破壊的行動障害などもっとおどろおどろしいものになってしまう。それよりは「発達障害」状態という言葉の方がまだいいという判断が職員や書き手の側に生じたのではないだろうか。いずれも、非行の医療化あるいは逸脱の医療化だと言えば、それまでなのだが。。。

 いずれにしても、LD,ADHDと非行の関係について論じた報告においては当初、生物的要因だけでなく、社会,文化的要因も重視していた。もちろん、生まれつきの発達障害を抱えていたために負の連鎖に巻き込まれやすくなったのか、負の連鎖に巻き込まれたために発達障害状態になったのかについては因果関係を判断するのは難しい。しかし、発達障害臨床ではもっとも注目される非行の生物的要因だけでなく、社会,文化的な要因も無視できないということは結果として裏づけられる。

 ともあれ、宇治少年院ではそれまでの受容と共感を重視する矯正教育をやめて、枠組みと支援者側の権限を強化する認知行動療法を取り入れることになった。では、その成果はどうだったのだろうか。宇治少年院の自己評価では平成11年に1日平均収容人員は118%で仮退院した少年たちの再犯率が28・2%だったのが、平成15年には1日平均収容人員が126%と増加したにも関わらず、再犯率は22.9%に低下した。認知行動療法の導入が若干の効果を持っていたことは事実として認めていいだろう。それはキャンベル共同計画で認知行動療法が再犯の防止に有効とされている結果とも符合する。

 この結果を受け、宇治方式は少年院関係者,発達障害の専門家,親の会の関係者に熱狂的に歓迎された。品川本が出た時点では海外の専門家も含めて見学者が殺到したと言われている。もっとも、宇治方式ブームは現在から見れば若干醒めた目で見た方がいいかもしれない。2009年の9月宇治方式のけん引役ともなった名物的な元統括主任は施設内での虐待容疑で逮捕された。まだ、有罪となった訳ではないので断罪をするのは早いという意見が大勢を占めるが、在任当時の宇治少年院でどのような教育がんされていたのかは再検証が必要とされている。特定の教育プログラムをブームの時は持ち上げるが、その後の経過を全く検証しないのは、支援業界の悪い癖でもある。ブームだった頃は宇治方式を手放しで賞賛していた発達障害の大御所的な専門家(スーパーバイザークラス)も多かったが、教官逮捕の件についてはいまだに沈黙したままである。

 また、再犯率の低下という点については事実としては認められるが、あくまで再犯率が3割近くだったのが、2割近くまでに下がったに過ぎないという醒めた目も必要だろう。教育を植物を育てるための肥料に喩えるならば、今までの肥料(教育)でもそれなりに植物は育ったが、もっと育ちをよくする肥料が開発することに成功したと言ったところだろう。しかし、それは認知行動療法の専門家が喧伝したように「これまでの矯正教育,療法ではだめだ」と言えるほどのものだろうか。それまでの矯正教育でも7割の非行少年は社会復帰を果たしていたのである。もちろん、今までよりもよい方法が見つかったのであれば、今までのやり方が通用しなかった少年たちに実施してみることは悪いことではないが、品川本の宇治方式の紹介はやや誇大広告であるようにも思える。

 さらに教育を肥料に喩えた場合、肥料だけがその植物を成長させていると考えるのは禁物である。日光,気候,土壌,水などが植物の成長には影響を与えるのであり、肥料だけによって植物が生長する訳ではない。そして何よりも、その植物自らが育ち変わっていこうとする力を持っていることがとても重要なのだ。手塚治の名作『ブラックジャック』に登場するブラックジャックの恩師本間丈太郎医師は「医者が患者の生き死にを左右するなんておこがましいと思わんかね」と言って息絶えた。同じ理由で「療法が少年たちの成長を左右するなんておこがましいと思わんかね」と語ることは可能だろう。療法の効果測定には、療法以外の少年たちの成長に与えた力,本人が自ら成長していく力を無視してしまう側面があることは否定できない。

 若干脱線が多くなったが、品川本を意義と問題点を整理すると以下のようになる。

@それまで学会などで話題になる程度だった発達障害者と非行の関係についての問題提起が社会一般で広く知られるようになった。
A非行臨床の現場に生まれつきの発達障害少年もそれなりの割合でいるということが明らかになった
Bその解決方式として、認知行動療法を矯正教育に取り入れよという声が発達障害臨床,非行臨床の世界で上げられるようになった
C一方でこれらの言説は、少年犯罪の増加,凶悪化という言説と同調していた訳ではないが、少年犯罪への社会の関心を最大限に利用して繰り広げられた

 そして、@Aについてはスキャンダルまみれになった宇治方式の推進者たちが行った重要な問題提起であったことは否定できない。

 次に医師の立場から京都における発達障害と非行の関係を統計にして紹介した定本ゆきこ氏の統計を紹介して今回の話を終わりにしよう。まず、京都少年鑑別所に入所する全少年の平均IQは80台後半とされ、一般に比べて10ポイント以上少ない。

新田中ビネー式検査では

劣域(IQ63〜77) 2割
中の下域(IQ78〜92) 4割弱
中域(IQ93〜107) 3割弱

という分布になっており、刑務所の受刑者と同様、軽度知的〜境界知能の院生が多いことが明らかにされている。
異なっているのは刑務所のようにどう見ても福祉が扱うべきであったであろう重度の障害者たちの姿はあまり目につかないことだ。

 軽度知的では普通学級に通っているケースが多いとされる。情報源は事情があって明らかにできないが、普通学級には2〜3%の知的な遅れを持つ子どもたちが在籍していると見られている。障害のある子どもが普通学級に行けるなんていいじゃないかと思う論者もいるかもしれないが、彼女/彼らには何ら合理的配慮がなされていないケースが多々あることを忘れてはならないだろう。これらの子どももまた、負の連鎖に巻き込まれるリスクが高いことが伺われる。

 ADHD状態にある子どもは2004年の時点で6割ほどおり、そのうちの2〜3割が生まれつきのADHDと診断される少年たちなのではないかとされている。他は生育歴的な問題,虐待,不適切な養育によって、ADHD状態になった子どもたちであり、やはり社会文化的要因を無視できないことが示されている。

 なお広汎性発達障害と診断できる少年は2004年は452例中12例、2008年362例中26例とされている。いずれにしても、知能で言えば軽度知的から境界知能に分布し、発達障害と診断される非行少年は通常よりも多いということは事実なのだろう。

 「そんなことばかり書いていると発達障害者が犯罪予備軍扱いされるので、やめろ」という声はあるかもしれないが、わたしはそうは思わない。むしろ、中度以下の知的障害のある子どもが少年院には少ないのに、なぜ軽度以上境界知能において割合が多いのか,あるいは発達障害と診断できる少年が多いのかを考えることは重要である。
そして、やはり考えられるのは、やはりこれらの層が貧困など以外の理由では家庭,教育における負の連鎖(暴力や否定的評価)に巻き込まれやすいからではないだろうか。生物的要因よりは負の連鎖という側面に注目し解決を目指していくのであれば、この統計は決してグレーゾーンの障害者たちにとって不利益にはならない。

 ここでも、触法障害者と同様、教育における負の連鎖に巻き込まれやすいのは「軽度」とされるグレーゾーンの障害者であることを強調しつつ、次の話題に入ろうと思う。次回からは、自閉スペクトラム障害/広汎性発達障害と非行との関係について話を進めていきたい。

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コメント(5件)

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発達障がいは人為的に作り出される。支援側の都合で・・・・本当に支援を受けたい人が遠ざけられて、非行少年=発達障がいというステロタイプになってしまう。こうもり氏渾身の論文は愛情抜きには出来ない分析だろう。
 次の自閉症スペクトラム・広汎性発達障がいと非行の因果関係が楽しみだ。
 本来なら学者がすべきなんだろうけど、支援サイドの立場で論じる癖がある。(幾多の専門家の本を読んだ上での感想だが・・・・)
ぶじこれきにん
2010/03/22 12:45
>発達障がいは人為的に作り出される。

ええ、たぶんこうもりくんが言っているのは、
少年院には生まれつきの発達障害少年以外に
環境的に作り出された発達障害状態にある少年たちも多くいる
というお話なのではないでしょうか。
発達障害は人為的に作り出されると言ってしまっては、
語弊があるやもしれません。
悪い魔女
2010/03/22 20:23
言葉が足りなくて申し訳ない。
 私が言いたいのは先天性の発達障がいと、後天性の発達障がいがいると言いたかったのですが・・・・・。悪い魔女さんのご指摘の語弊があるのは事実でしょう。
 いつも丁寧なご指摘、見事な魔法と魔術の解説ありがとうございました。 この解説から読み取ると、おそらくこうもり氏は環境で発達障がいとみなされる非行少年が作り出されると言いたいのでしょう。
ちなみにこうもり氏が引用した品川氏は私は面識があり、発達障がいを一面でしか見ない人だと思った。
 
ぶじこれきにん
2010/03/22 21:49
わたし自身はグレーゾーンの障害者という場合、生まれつきの発達障害も人為的に発達障害状態になった場合も、ある一定の生活基盤を確保できていなければ、対応が必要との立場です。ただし、統計上はこの2つを分けておかなければ、事実が曲解される危険性があるので、強調しておきました。

今の時点ではもやもやと発達障害,軽度知的障害が元にあって負の連鎖に巻き込まれた少年と生活条件の悪い家庭に生まれたために負の連鎖に巻き込まれた少年のどこが違うんだろうかという点について考えこんでしまっております。

もちろん、両方の特徴を持った少年たちもいるのでしょうが。
こうもり
2010/03/23 20:09
ちなみに28日まで関西に行くので、しばしコメントはできません。あしからず。
こうもり
2010/03/24 23:34

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